「四谷怪談」
先日、たまたま新聞で見つけた、人間国宝「一龍斎貞水」の講談を予約してみた。暑い時期にぴったりの「四谷怪談」である。何でも吉祥寺第一ホテルが、開業20周年を記念した謝恩企画だそうで、食事つきという豪華な代物である。その日一日、たった2回だけの公演で、二部、18:30からの回に行くことにした。
少し早めに到着し受付へ行くと、「16:30からの部が、まだ終わりそうにないんです。開演には間に合うと思いますが、少しお待ち下さい。」と言われた。いかに人間国宝とはいえ、70歳になろうかという方である。それを長時間たった一人きりでしゃべり続け、更に二部が控えている訳だ。ちょっと心配になりながらも、静かにロビーで待つことにした。
しばらくすると、受付を通ってこちらに向かってくる女性が目に入った。
・・・ん!?李麗仙じゃないか!!!…あ~~感動。女優然とした立ち居振る舞いでなく、その控えめなたたずまいに更に感動してしまった。きっと楽しみにしてきたのだろうな。
さて、時間ギリギリでやっと会場となり、大広間に入っていくと、フラットなフロアーに椅子が敷き詰められている。うまく見えるかどうか心配ではあったけれど、灯籠や障子など、おどろおどろしいセットがしつらえてあり、いやが上にも期待感は増していく。
そこへ、さっきまで目一杯しゃべっていたとは思えない程、涼しげな表情をした一龍斎貞水先生が登場してきた。第一声から驚かされた。本当に艶のあるお声なのだ。これは最早驚異である。心配などしてしまったことが恥ずかしい。
声色を使い分けながら、どんどんとお話しに引き込んでいく。時々おもしろ話を差し挟みながら一気に落とす。その見事なことといったら。私の知っている「四谷怪談」とは違うので、次の展開が全く読めず、身動きすら出来ない内に1時間半があっという間に経ってしまった。これぞ人間国宝。一流のものを観ることが、いかに素晴らしいかを改めて知った。
余韻に浸りつつ、別フロアーのブッフェ会場へ。料理を取り分ける順番を待ちながらふと横を見ると…李麗仙が。熱々の春巻きを取っている彼女に、今更握手を求める訳にもいかず…。彼女が置いたばかりのトンクを持ちながら、「間接握手」を密かに喜んだ私であった。
一部・二部とも、結局予定を30分も延長してのお話しであった。こんな贅沢はない。
何度もいうが、70歳になろうかという方である。
機会があったら、ぜひ足を運んで頂きたい。


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